2022-09-07
ファクタリングと債権譲渡は何が違う?債権譲渡登記の必要性を詳しく解説
売掛金を早期に現金化できるファクタリングは、国も中小企業の新しい資金調達の方法として推奨しているものです。
キャッシュフローの改善やオフバランス化など、企業においてさまざまなメリットがあるファクタリングですが、その仕組みをしっかりと把握している方はあまり多くありません。
たとえば、ファクタリングと似ている仕組みに“譲渡債権”というものがありますが、双方は似て非なる物なのでシステムが大きく違います。
そこで本記事では、ファクタリングと譲渡債権の違いを詳しく紹介します。双方の仕組みを深く理解したいと考えている方は、ぜひ最後までご覧ください。
ファクタリングとは
ファクタリングとは、企業や個人事業主が保有する売掛金を現金化する資金調達です。
通常であれば売掛金は、売上が発生してからそれが現金化されるまでには一定の時間を有します。しかし、それだと売上は上げているのに現金がないという状態に陥るリスクがあり、企業のキャッシュフローが悪化するという懸念点が挙げられていました。
また、売掛金の支払いサイトがどうしても長くなる場合もあるため、資金繰りが悪化し、黒字でありながら倒産するなどのリスクもあります。
ファクタリングは売掛金を早期に現金化できるサービスであるため、企業や個人事業主のキャッシュフローを改善する効果が期待できます。
売掛金を保有していれば誰でも気軽に使うことができ、銀行融資のように保証人や担保を用意する必要もありませんので、企業の業績が悪くても利用することが可能です。
債権譲渡とは
債権譲渡とは、自社が保有する債権を譲渡することです。
ファクタリングが売掛債権を売却して現金化する仕組みなのでよく似ていますが、サービス内容は目的は大きく違います。それぞれの特性を把握することで、双方の比較が可能です。
一般的に債権譲渡をするのは下記のような例が挙げられます。
- ファクタリング
- 債権回収会社へ譲渡する
- 債権を受け取る権利を第三者へ譲る
- 債権を譲渡担保にして融資を受ける
例外はありますが、基本的に債権は自由に第三者へ譲ることができます。
債権が譲渡された場合は、譲受人にその権利が移ります。つまり、広い観点で見ればファクタリングも債権譲渡の一つの種類であるともいえます。
最近では売掛債権を使う資金調達はファクタリングが主流ですが、それ以外にも回収が困難になった不良債権を回収業者へ譲渡したり、第三者へ譲り代物弁済をするなどの方法があります。
ファクタリングと債権譲渡の違い
上記でファクタリングと債権譲渡の特徴を紹介していきましたが、ここからはそれぞれの明確な違いを“仕組み”と“資金調達への影響”の2つの観点から解説します。
仕組み
ファクタリングと債権譲渡では、サービスの仕組みが大きく異なります。
- ファクタリング⇒売掛債権の売買
- 債権譲渡⇒売掛債権の権利の移転
前述した通り、ファクタリングは売掛債権を売買して早期に現金化することを目的にしているサービスです。債権譲渡は、ファクタリングに仕組みは似ていますが債権の権利を移転するだけです。
基本的に債権譲渡は未回収債権の処分を目的にしているため、取引先の意向に関係なく債権を移転させることが可能です。有償の場合もあれば無償の場合もありますが、そもそもの前提としてファクタリングのように資金調達を目的にしているわけではありません。
ファクタリングが早期現金化、債権譲渡が未回収債権の処分を目的にしているため、双方で大きく仕組みが異なります。これで全く違うサービスであるということがわかるでしょう。
資金調達への影響
ファクタリングと債権譲渡では、資金調達への影響も大きく異なります。
当然ではありますが、売掛金を早期で現金化できるファクタリングは資金調達に役立ちます。最近では中小企業が銀行からの融資に依存しすぎているとして、国でさえも売掛金を活用したファクタリングの利用を推奨している程です。
しかし、債権譲渡は資金調達には役立ちません。未回収の売掛債権を処分して経営実態を正確に反映することは可能ですが、それで現金を得られるわけではありません。
銀行融資の際に不良債権を放置していないという点でプラス評価を受けられるため、将来的に見れば資金調達には高い効果が期待できます。しかし、ファクタリングのようにまとまった現金が得られるわけではないため、直接的な資金調達には影響がありません。
ファクタリングにおける債権譲渡登記とは
ファクタリングを利用するとなると、債権譲渡登記という言葉をよく聞きます。
前述したように、債権は自由に第三者へ譲ることができます。これはつまり、契約書を交わさずに口約束だけでも契約を締結できるということです。
ファクタリングにおける債権譲渡登記とは、債権を譲り受けた側が債権の権利を主張できるようにするために制定された法制度です。
ファクタリングにおける債権譲渡登記の必要性を下記で詳しく解説します。
二重譲渡防止
債権譲渡登記は二重譲渡防止に効果があります。
もしも債権譲渡登記をしていなければ、実際には売掛債権を譲渡しているにも関わらず、その事実を法的に証明することはできません。仮に譲渡人が「売掛債権を譲渡した事実はない」と主張してしまえば、A社だけではなくB社にも譲渡するといった二重譲渡ができてしまいます。
2社間では利用者とファクタリング会社で契約が締結されるため、仮に債権譲渡登記が行われていなければ、利用者は複数業者へファクタリングを依頼するということも可能です。
このような詐欺行為を防ぐため、基本的に2社間ファクタリングでは債権譲渡登記がセットになっているのが普通です。債権譲渡登記を二重譲渡防止の対抗要件にできるので、仮に譲渡人が譲渡していないと主張しても、債権が移行された証拠が残るというわけです。
未回収リスク防止
ファクタリングには大きく分けて2社間と3社間の契約形態があります。
3社間ファクタリングは利用者、ファクタリング会社、取引先の3社で契約が結ばれるため、譲渡人の意志に関係なく取引先から回収できるため未回収リスクは低くなります。
しかし、2社間は利用者とファクタリング会社で契約が結ばれるので、譲渡人に支払いの意志が仮にあったとしても、売掛金の回収に難航するリスクがあります。
たとえば、資金繰りが苦しくて本来であればファクタリング会社へ入金すべきお金をその前に使いこんでしまうというのは、現金が少ない企業であればない話ではありません。
このようなトラブルを防止するためにも、2社間ファクタリングでは法的に売掛債権の譲渡を認めてもらえる債権譲渡登記を重視する傾向にあります。
債権譲渡登記をせずに2社間ファクタリングで資金を使いこまれてしまっても、ファクタリング会社は債権が移行している証明ができないため、泣き寝入りをするしかなくなります。
債権譲渡登記をする際の注意点
ファクタリング会社も利用者も債権譲渡登記は得しかないように感じるかもしれませんが、実は一概にそうとはいえません。以下では、債権譲渡登記をする際の注意点を紹介します。
取引先へファクタリングの利用が知られるリスク
債権譲渡登記をすることで、取引先へファクタリングの利用を知られるリスクがあります。
しかし、これは非常に低い確率ではあります。登記簿は誰でも閲覧することができるため、仮に取引先に登記事項を見られては知られるリスクがあるということです。
とはいえ、通常の取引を行っていれば、取引先がわざわざ登記簿をチェックする確率は極めて低いため、普通の関係を築けていればまず知られることはありません。
仮にファクタリングの利用が知られてしまった場合は、財務状況が悪いのかなと疑われ、関係性が悪くなるリスクは少なくないです。
融資の審査で不利に働くリスク
ファクタリングを利用する際は担保や保証人、個人の信用度は関係ありませんが、銀行からの融資であれば財務状況などを細かく見られます。
中小企業の利用を推奨されるファクタリングですが、売掛金を保有していなければ資金調達をすることはできません。また、売掛金以上の資金を調達することもできないため、大きな現金を手に入れて設備投資などを行いたい場合は、銀行からの融資を検討する必要があります。
その場合、債権譲渡登記が融資の審査において不利に働く可能性がないとはいえません。
銀行からの融資で個人の信用度を調査する際は、企業がどのような財務状況かを調べます。ファクタリングは資金繰りに苦しんでいるという印象を与えてしまい、キャッシュフローがよくないという印象を与えてしまうため、心象を悪くするリスクは十分に考えられます。
心象を少しでも良くしたいと考えている場合は、審査担当者の方から債権譲渡登記のことを聞かれる前に、ファクタリングを利用する際に譲渡したという旨を隠さずに伝えておきましょう。
まとめ
ファクタリングの債権譲渡の違い、ファクタリングにおける債権譲渡登記の仕組みや注意点を詳しく解説していきました。
売掛債権を売買することで資金を得るファクタリングと、売掛債権を第三者へ移転させる債権譲渡はとても似ていますが、目的や資金調達への影響が大きく異なります。
ファクタリングは売掛金を売却して現金化する資金調達ですが、債権譲渡は不良債権を処分する際に利用される仕組みなので、双方を同じものだと考えるのは避ける必要があります。
また、ファクタリングを行う際は債権譲渡登記が必要になる場合が多いものの、必ずしなければいけないというわけではありません。
一般的には取引先が関与しない2社間ファクタリングでのみ債権譲渡登記が必要であり、取引先も契約に含まれる3社間ファクタリングでは登記の必要がありません。
ファクタリングの利用を考えている方は、債権譲渡登記の必要性を把握したうえで契約を結びましょう。