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2023-07-10

仕掛品とは?工業簿記特有の勘定科目をわかりやすく解説

会計業務の中でも特段、製造業に従事していないと耳にする機会も少ないであろう「仕掛品(しかかりひん)」という勘定科目。

工業簿記を学んだことのある人であれば、どのような勘定科目であるのかを知っているかも知れませんが、工業簿記以外の場面で用いることがほとんどないため、多くの方がイメージを持てずにいるのではないでしょうか。

そこで、この記事では仕掛品がどのような勘定科目であるのか、どのようなケースで用いるものなのかなど、詳しく解説していきます。

簿記2級では工業簿記に触れることとなるので、これから簿記2級の取得を目指そうと考えている方、工業簿記にトライしてみて少しつまづいてしまっている方にとって、この記事が理解を促進する一助となれば幸いです。

仕掛品とは?

仕掛品とは、製品を製造するために消費したすべての原価を集計する勘定科目であり、言い換えるならば、製造途中の品物に対して当てはめられる勘定科目となります。

具体的な仕訳の流れは後述しますが、製品の製造過程では直接材料費・直接労務費・直接経費・製造間接費という費用が発生し、これらの費用を集計するにあたり仕掛品勘定へと振替が行われるのです。

ちなみに、仕掛品という名称は、作業を始める・行っている最中などを意味する「しかかる(仕掛かる)」が由来となっています。

仕掛品とは別物!似たような勘定科目に注意

先の説明の通り、仕掛品は消費された原価を集計するために用いる勘定科目ですが、まさに製造途中にある製品のことを表した言葉でもあります。

しかし、製造途中である製品を表す言葉は「仕掛品」だけでなく、「半製品」という言葉もあります。

2つの勘定科目の違いですが、製造業において、製造工程に応じた製品の変化の流れは、①原材料、②仕掛品、③半製品、④製品の順番となっています。

原材料は製造工程に入る前の状態ともいえ、逆に製品にまでなれば製造工程の最終的な成果物だとピンとくるでしょう。

その間にある仕掛品と半製品の違いですが、売り物としても扱うことが可能か否か、という点にあります。

仕掛品は売り物にならず、半製品は未完成ですが商品として販売が可能な製品状態を表しています。

実際の製品で違いをはっきりと理解しよう!

売り物として扱えるか否かと説明しましたが、ここでは仕掛品と半製品の違いを実際の製品(ノートパソコン)を例に考えてみます。

ノートパソコンの仕掛品の状態というのは、例えば各部品を組み立て途中で液晶やキーボードが取り付けられていない状態などが挙げられます。

液晶、キーボードなどが搭載されていないとノートパソコンとしての機能を果たすことはできませんよね。つまりはノートパソコンとして販売することもできないというわけです。

一方で、半製品の状態というのは、各部品の組み立てが完了し、ノートパソコンとしての機能は十分に果たせるものの、箱詰めされていない状態などが挙げられます。

梱包されていないだけでノートパソコンとしての機能を果たすことができるため、店頭で販売しようと思えば可能な状態となっています。

仕掛品と半製品の違いは、製造している製品に本来搭載される機能がきちんと果たされるか、と言い換えることも可能だといえます。

業種によっては「仕掛品」と呼ばないことも!

仕掛品という勘定科目は一般的な会計用語であり、製造業の経理業務において広く用いられていますが、業種によっては仕掛品と呼ばないケースもあります。

主な代表例は以下の通りです。

  • 建設業:仕掛工事/未成工事支出金
  • 不動産開発:開発事業等支出金
  • 造船業:半生工事支出金
  • ソフトウェア制作:ソフトウェア仮勘定

どれも仕掛品を扱う場合と同様ですが名称が異なることがあることを理解しておきましょう。

仕掛品を計上する上でのポイント

仕掛品を計上する際には以下2つの要点を抑えておきましょう。

計上のタイミング

仕掛品を計上するタイミングとして最も一般的なのは、出納帳などの帳簿作成時です。

棚卸資産の整理を行い、帳簿を作成するタイミングで仕掛品の計上を行えば経理処理のミスを招く可能性も随分と小さくなるでしょう。

仕掛品の計上をいい加減に進めてしまうと、その後の経理作業となる売上や利益管理も正確に行えなくなります。

仕掛品の実態を正しく管理することは、経営状況を把握する上で非常に大切なことです。毎月、決まった時期に仕掛品の計上を実施するようにしましょう。

仕掛品の勘定科目

仕掛品の勘定科目は棚卸資産に該当します。製品製造における原価を集計するために用いる科目ですが、費用の勘定科目ではありません。

製造途中においては何らかの経費が掛かっているだけの状態にある仕掛品ですが、製品として完成すれば、それは売上になります。

将来的に売り上げとなる仕掛品は、流動資産という扱いであるため費用には計上できないのです。仕掛品の意味をきちんと理解して、誤った経理処理をしてしまうことがないように気を付けましょう。

仕掛品の計算方法

仕掛品をはじめ、製品製造に用いる原材料などを計算する方法は、実態の製造過程に応じて異なってきます。

先入先出法

先入先出法は、月初めに残っている仕掛品を完成させてから、党付き分の原材料を投入するという考え方の計算方法になります。

月途中の原価の数量を把握できる点がメリットとして挙げられますが、後述する平均法と比較して仕掛品算出のための計算のステップはやや複雑になります。

平均法

平均法は、月初めに残っていた仕掛品と当月の投入分を合わせて、平均的に生産を進めるという考え方の計算方法です。

計算式がシンプルであることがメリットである一方、先入先出法のように月途中の原価を把握するのは難しいというデメリットがあります。

後入先出法

後入先出法は、当月に投入した分から先に使い、余裕があれば残っていた仕掛品を完成させるという考え方に基づく計算方法になります。

物価の変動に影響されずに仕掛品の算出を行えますが、都度の生産状況によって計算式が変わるため、単純な計算式に当てはめた計算を行うことができません。

そして、計算の複雑性は当月の投入分が残ってしまうと更に増します。月初めに残っていた仕掛品にまで着手できれば、計算はある程度行いやすくなるでしょう。

仕掛品を用いた仕訳の流れ

仕掛品の仕訳は、計上するときの状況に応じて使い分けが必要となります。

ここでは、仕掛品の仕訳を行う一般的なケースをまとめました。

製品製造のために原材料を出庫した際

製品製造のために原材料を出庫した場合の仕訳は以下のようになります(出庫した原材料の額は20万円)。

借方 貸方
仕掛品 200,000円 原材料 200,000円

製品製造のために必要な労務費・製造経費を費消した際

製品製造のために労務・経費を費消した場合の仕訳は以下のようになります(労務費は100万円、製造経費は25万円)。

借方 貸方
仕掛品 1,250,000円 労務費 1,000,000円
製造経費 250,000円

製品が完成したとき

製品が完成した際には、仕掛品として計上していた、製造工程中に発生した製造原価を製品へと振り替える必要があります(製造原価は100万円)。

借方 貸方
製品 1,000,000円 仕掛品 1,000,000円

仕掛品の扱いにおける注意点

仕掛品を計上することは製造工程における原価投入を把握するために重要な作業です。

仕掛品の処理ミスは決算処理のミスに響いてしまう

仕掛品は販売できない未完成状態のコストを一時的に仕掛品として集計するために用いられ、製品が完成し売上が生じたら、改めて経費へと計上し直されます。

この仕掛品の処理ですが、決算期をまたぐ時期に誤った作業をしてしまうと、決算処理にも影響が生じてしまいます。会社の経営状態が正しく明らかにならないことで様々なトラブルの要因となってしまいます。

先に触れた仕掛品を用いる経理処理のポイントを抑えて、ミスを起こさないようにしましょう。

決算期をまたぐ際の経費と売上のずれは税額を狂わせる

税額は売上から経費を引いた金額から算出を行うため、決算期における仕掛品の経費計上(経費への振替)が適切に行えていないと、本来支払わなければならない税額よりも少額で算出することになってしまいます。

意図しないミスだったとしても、仕掛品の計上漏れは明確な脱税行為とみなされてしまう可能性があるので、仕掛品と経費の計上には細心の注意を払いましょう。

税務調査では仕掛品の計上漏れが問題に挙げられやすい

これまでの説明の通り、仕掛品の計上漏れは納税すべき税額に直接響くため、税務調査の際には特に、仕掛品の計上に関して目を光らせて調査が行われます。

特に、製品完成までに多くの時間を要する都合上、決算期をまたぐことが一般的でもある建設業などでは、見落としが生じやすいようです。

建設業特有の流動する金銭の額の大きさもあって、税額の問題が取り沙汰される格好の的となっているようです。

建設業に関わらず、どのような業界・業種であっても、脱税と疑われてしまわないように留意しましょう。

最終的に経費へ計上するけれど仕掛品はとても重要!

これまでの説明を踏まえて、「最終的に経費に計上してしまうのならば、わざわざ仕掛品の勘定科目を介さない方が効率的なのでは?」と感じた方もいるのではないでしょうか。

たしかに、仕掛品を介さずとも経費として計上できてしまうのですが、そのような経理処理を行うと、製造工程の途中でどれくらいの原価が発生したのかを把握できなくなってしまうも同然の状態となってしまうのです。

製造工程における金銭の流動が分からない状態は、製造業の経営などを踏まえると致命的な状況を作り出してしまう悪影響しかありません。

仕掛品の計上をきちんと行い、製造工程における金銭の流動を正確に把握できるようにしましょう。

まとめ

製造業の会計処理の際に頻出する「仕掛品」について、その意味や計算方法、計上する際の要点と注意点から解説してきましたが、ご理解いただけたでしょうか。

仕掛品という勘定科目を用いることで、製造工程における金銭の流動を把握できるようになっていることを理解してもらえれば幸いです。

きちんとした理解のもと経理処理を行わないと、脱税という大きな問題に発展してしまうことにもなりかねません。ぜひこの記事を、今後の経理処理に役立ててみてください。