2023-07-10
経営者必読!理解しておくべき分析指標の一覧と目安を解説
企業の健全な経営維持と発展を実現するには、適切な経営判断を下すこと、さらには、適切な経営判断のためには、自社の経営状態を経営指標を用いてきちんと把握・分析することが重要となります。
この記事で解説する分析指標を正しく理解することで、自社の経営状況を客観視することが可能となります。ひいては、経営判断を行う上での、力強い武器となってくれるでしょう。
今回の記事では、企業経営者ならば必ず理解しておくべき経営分析指標を一挙に解説しています。
経営状況の良し悪しを判断するための数値的目安についても触れているので、この記事をご覧になった後は、ぜひご自身で分析に取り組んでみてもらえればと思います。
経営指標の概要と重要性【決算書や試算表では不十分!】
経営状況が示された1つの形として、決算書や試算表がありますが、それらの情報は外部閲覧用として見やすいように、一定のフォーマットが決まっており経営状況を細部まで把握するには不十分です。
経営指標の算出にあたっては、損益計算書、貸借対照表、株主資本等変動計算書、キャッシュフロー計算書などの、さまざまな財務諸表を用います。そのため、得られる情報の精度・密度は、決算書から得られるもの以上となります。
そして、財務諸表を用いた複合的な分析を行うことで、企業経営における以下の効果に期待できます。
自社の現在の経営状況を把握できる
企業の健全な維持と発展のためには、利益を上げ続けることが重要となります。ですが、「今期の収益が黒字だから良い」と安易な判断を下していては、長期的な利益の創出を果たすことはできません。
黒字となったならば黒字になっている要因を分析し、今後のさらなる成長のために活かしていくことが重要となります。
また、赤字となっているならば弱点がどこにあるのかを特定し、解消を図っていかなければなりません。
自社の現状を把握することは、企業の持続的な成長にとって必要不可欠といえます。
経営指標を用いた分析によって、具体的には企業経営の収益性(企業が儲かっているか)、安全性(企業の財政面が安全か)、生産性(企業事業の効率性が優れているか)の観点から精査が可能となります。
経営計画の策定や修正に活用できる
経営計画とは、中長期的に企業が果たす目標であり、達成すべき数値や施策として明示化したものを表しています。
経営計画は決算報告書のように作成義務はありませんが、社内の目標の共有を促したり、適切な意思決定を行う際の手助けとなったりと、作成によるメリットは非常に大きいです。
そして、経営計画は実現不可能な高い理想を掲げるのではなく、合理的かつ実現可能な目標を設定する必要があります。そのため、経営指標を活用して自社の経営状況を分析し、企業の強みや弱みを把握することが重要となります。
経営指標は、企業経営の方向性を示すコンパスの役割を果たしてくれます。
日々の経営判断の材料・武器となる
企業の経営者は、日々さまざまな領域で経営判断を求められます。経営者による判断は企業の将来を左右し、判断を間違えたりタイミングを逃したりすると、致命的な状況に追いやられる危険性があります。
そのため、経営者には常に自らの手で事業の状況を細部まで確認し、企業の現況に関する情報を最新の状態で維持することが求められます。
しかしながら、事業規模の大きな企業や、事業が多岐に亘る企業の場合、経営者一人では事業状況を把握しきれないこともあります。経営指標があれば、そのような状況でも適切な経営判断を下しやすくなります。
経営改善に役立つ経営指標【一覧】
ここでは、分析に用いられる各種の経営指標について解説します。
収益性を示す経営指標5つ
収益性を示す指標を算出することで、他社比較における強みと弱みがどこにあるのか、成長の余地があるのか、効率的な改善のためのボトルネックがどこであるのかを判断しやすくなります。
①売上高経常利益率
売上高経常利益率とは、売上高に対する経常利益の割合を示した指標で、「事業全体(本業とそれ以外を含む)の稼ぐ能力」を表します。
②総資本経常利益率
総資本経常利益率とは、総資本に対する経常利益の割合を示した指標で、「事業に投資した資本から効率的に利益を創出する能力」を表します。
③自己資本当期純利益率
自己資本当期純利益率とは、企業の自己資本に対する当期純利益の割合を示した指標で、「企業の経営効率の高さ」を表します。
④総資本回転率
総資本回転率とは、企業の総資本に対する売上高の割合を示した指標で、「事業に投資した資本をどのくらい効率的に活用したか」を表します。
⑤損益分岐点比率
損益分岐点比率とは、利益と費用がゼロになる損益分岐点が売上高に対して何割の位置にあるかを示した指標で、「売上高の減少に対する強靭性」を表します。
指標の計算式と数値目安【一覧】
経営指標 | 計算式 | 数値目安
(数値の意味) |
売上高経常利益率(%) | (経常利益/売上高)×100 | 2%~7%
(比率が高いほど良い) |
総資本経常利益率(%) | (経常利益/総資本)×100 | 3%~5%
(比率が高いほど運用効率に優れている) |
自己資本当期純利益率(%) | (当期純利益/自己資本)×100 | 7%~12%
(比率が高いほど効率性に優れている) |
総資本回転率(%) | (売上高/総資本)×100 | 110%~180%
(100%より大きいほど効率性に優れている) |
損益分岐点比率(%) | (損益分岐点売上高/売上高)×100
=[固定費/{1-(変動費/売上高)}]/売上高×100 |
~90%
(100%より小さいほど売上が少なくとも利益が生まれやすい) |
安全性を示す経営指標5つ
安全性を示す指標を算出することで、企業の財政面におけるリスクの大きさを把握できるようになります。数値として取り扱うことで業界平均値との比較も可能となり、リスクの大きさを客観的に捉えることもできます。
①流動比率
流動比率とは、流動負債に対する流動資産の割合を示した指標で、「短期的な支払い状況が健全か否か」を表します。
②負債比率
負債比率とは、企業の資本に対する企業全体の負債の割合を示した指標で、「中長期的な期間に亘る債務返済能力の高さ」を表します。
③固定比率
固定比率とは、企業の資本に対する固定資産の割合を示した指標で、「固定資産への投資をどの程度自己資本によって賄っているのか」を表します。
④自己資本比率
自己資本比率とは、自己および他人資本に対する自己資本の割合を示した指標で、「企業全体の資本のバランスが安定的か」を表します。
⑤財務レバレッジ
財務レバレッジとは、自己資本に対する総資本の割合を示した指標で、「自己資本の何倍の資産を事業に割いているか」を表します。
指標の計算式と数値目安【一覧】
経営指標 | 計算式 | 数値目安
(数値の意味) |
流動比率(%) | (流動資産/流動負債)×100 | 150%~
(200%を超えるようになると経営的に安全といえる) |
負債比率(%) | (負債/自己資本)×100 | ~100%
(100%より小さいほど返済能力が高い) |
固定比率(%) | (固定資産/自己資本)×100 | ~100%
(100%未満であれば固定資産への投資が適切な範囲で為されている) |
自己資本比率(%) | {自己資本/(自己資本+他人資本)}×100 | 30%~
(30%以上であるほど他人資本に過度に依存していないといえる) |
財務レバレッジ(倍) | 総資本/自己資本
=(自己資本+外部資本)/自己資本 |
2.0倍~
(2倍程度であれば安全の範囲内にあるといえる) |
生産性を示す経営指標4つ
生産性を示す指標を算出することで、人件費や投入資金の使い方が効率的に為されているか否かを把握できるようになります。無駄の少ない経営改善策の立案にも役立てられます。
①労働分配率
労働分配率とは、売上総利益に対する人件費の割合を示した指標で、「人件費の適正度合い」を表します。
②売上高付加価値率
売上高付加価値率とは、売上高に対する付加価値の割合を示した指標で、「企業が新たに創造した価値の影響度合い」を表します。付加価値とは、企業の経営活動を通じて、企業が外部から購入したモノやサービスに新たに付与された価値のことを意味します。
③労働生産性
労働生産性とは、付加価値額を従業者数で除することで算出される指標で、「付加価値創出のために割いた人件費の効率性」を表します。
④資本生産性
資本生産性とは、付加価値額を有形固定資産額で除することで算出される指標で、「付加価値創出のために割いた資本の効率性」を表します。
指標の計算式と数値目安【一覧】
経営指標 | 計算式 | 数値目安
(数値の意味) |
労働分配率(%) | (人件費/売上総利益)×100 | 40%~60%
(50%前後に推移することが望ましい。高過ぎる場合、利益に対して過剰な人材投入が行われている可能性がある。低すぎる場合、不当に安い賃金で働かせている可能性がある。) |
売上高付加価値率(%) | (付加価値/売上高)×100
={(売上高-売上原価)/売上高}×100 ={(人件費+地代家賃+租税公課+減価償却費+金融関連費用+営業利益)/売上高}×100 |
20%~45%
(高いほど生産性に優れている) |
労働生産性(円/人) | (付加価値額/従業者数) | ※業種・企業規模によって水準が大きく異なる
(高いほど効率性に優れている) |
資本生産性(%) | (付加価値額/有形固定資産額)×100 | 製造業:0.85~1.00
非製造業:1.05~1.65 (高いほど効率性に優れている) |
まとめ
企業経営の健全な維持と発展のために、経営者が必ず理解すべき経営指標について解説してきましたが、いかがでしたか。
経営指標を活用することで、企業の現状を収益性、安全性、生産性の観点から客観的に精査できるようになり、ひいては要所での経営判断を適切に下せるようになります。
そしてさらには、適切な経営判断を続けることで企業の成長へとつながっていくのです。
それぞれの経営指標の計算方法だけでなく、算出される数値が意味する内容を理解することで、企業経営にも役立てやすくなるでしょう。
今回の記事で紹介した経営指標をうまく活用し、効率的かつ効果的な経営改善を実現してもらえれば幸いです。