2024-11-25
マイナス金利解除するとどうなる?歴史と合わせて解説🔍
通常お金を銀行に預けると、一定額の金利を受け取れます。
しかしながら、日本銀行はしばらくの間あえてこの金利をマイナスに設定していました。
そして、このたびマイナス金利が解除されることとなりました。
マイナス金利を解除すると、経済にはどのような影響が出るのでしょうか。
そもそもなぜ日本がマイナス金利になっていたのかなどと合わせて解説していきます。
■マイナス金利解除を発表した日銀
2024年3月、日本銀行はこれまでのマイナス金利政策を変更し、-0.1%だったものを0から0.1%へと引き上げると発表しました。
日銀は2016年から金利をあえてマイナスに設定していたことで知られています。
それが8年の時を経て、とうとうお金の預け入れに対して金利を払うことを決定したのです。
とはいえ、一般人からしてみると金利をマイナスにするというのはおかしな話に見えます。
私たちが普段利用している民間銀行では、金利をプラスに設定するのが当たり前です。
銀行は顧客に預けてもらったお金を元手に運営されていくものです。
そうであるからには、お金を預けてもらった対価として金利を支払うのは当然でしょう。
にもかかわらず、金利をマイナスにしてしまうと、逆にお金を預けてもらったほうの銀行が、顧客にお金を要求してしまう形になってしまいます。
たとえば、金利が年-0.1%の銀行に1万円を預けるとしたら、顧客が逆に10円を銀行に支払わなければいけません。
普通に考えれば、預金をするために余計にお金を支払わなければいけないというのはやや理不尽な話です。
では、なぜ日本銀行はこのような政策を採用していたのでしょうか。
・日銀はなぜ金利をマイナスにしていた?
まず、日本では90年代末からゼロ金利政策が採用されていたことを押さえなくてはいけません。
この時期、日本では不況が深刻化していました。
不況とは、簡単に言えばお金が社会に出回らなくなっていく状態です。
お金が社会に出回らなくなる要因の一つとして、民間銀行が自社からお金がなくなるのをおそれるあまり、顧客にお金を貸し出さないことが挙げられます。
民間銀行のお金の預け先である日本銀行は、そうした現状を打開するために金利をあえてゼロに近い数字にすると決めました。
こうすることで、民間銀行のお金を日本銀行に預けられないようにし、社会に流入するよう仕向けたのです。
こうしたゼロ金利政策は、二度の解除を挟みつつ、2016年まで実施され続けました。
とはいえ、この政策を採用していた間に日本の景気が良くなったかというと、必ずしもそうは言い切れません。
そこで、もっと抜本的な対策を採るべきとして採用されたのが、マイナス金利政策だったのです。
ゼロ金利政策は確かにお金を預け入れても金利がほとんどもらえないので、民間銀行にとってはメリットはあまりないように見えます。
とはいえ、お金を無事に保管できるというメリットは何物にも代えがたいものがあります。
そのため、たとえ金利がゼロに近かろうと、民間銀行は依然として日本銀行にお金を預け続けていたのでした。
そうであるのならば、お金を日本銀行に預けるのは損、という認識を民間銀行に植え付けなければ、いつまで経っても社会にお金は出回っていかなくなるでしょう。
だからこそ、日本銀行は金利をマイナスにすることで、民間銀行によるお金の預け入れを阻止しようとしたのです。
■マイナス金利政策は成功したか?
2016年から8年間続いたマイナス金利政策は、2024年に終止符が打たれました。
普通に考えると、これまで採用していた政策を中止するとなれば、それは失敗したのではないかと考えたくなるところです。
とはいえ、マイナス金利政策はあくまでも異例の対策であることを踏まえておかなくてはいけません。
再三述べていますが、本来なら銀行はお金を預けてもらったらその代わりに金利を返すビジネスです。
そんな金利を、あえてマイナスにしなければいけないほど日本経済が良くなかったからこそ、採用された政策だったという事実は頭に入れておかなければならないでしょう。
これは言い換えれば、日本経済が良ければ金利をマイナスにする意味はないということでもあります。
つまり、マイナス金利政策が成功したからこそ解除されたという可能性も考えなくてはいけません。
では、実際のところマイナス金利政策は成功したのでしょうか。
それとも失敗してしまったのでしょうか。
・消費者物価上昇率は上がったが……
そもそもマイナス金利政策を採用した目的の一つに、消費者物価上昇率を安定させることが挙げられます。
日本は長きにわたって物価が下がり続けるデフレーション状態にあえいでいました。
デフレがなぜ悪いかといえば、一つひとつの商品の売上高が低くなり、企業の経営が悪くなり続けて不況が深刻化してしまうところにあります。
その結果、企業が倒産してしまった場合やリストラを敢行せざるを得なくなったら、一般の方の生活にも悪影響が出てしまうでしょう。
日銀では、こうしたデフレを解消するための一環として、マイナス金利を実施したのです。
では、デフレは改善できたのかといえば、2024年の消費者物価上昇率は3.1%と発表されています。
マイナス金利政策を実施した頃に、当時の黒田日銀総裁は、消費者物価上昇率を2%で安定させることを目標にすると発表していました。
そのため、結果的に言えばデフレは解消されていますが、その原因はマイナス金利政策とは言い切れません。
現在の物価上昇は、原油価格や輸入原料の上昇、そして円安こそが原因です。
そのため、物価上昇だけをもってマイナス金利政策が成功したわけではありません。
・成功か失敗かの評価はまだまだ先?
もっとも、だからといってマイナス金利政策が失敗したとも言えないのが難しいところです。
マイナス金利政策を採用してから、世界は新型コロナウイルスによる経済低迷を経験しました。
感染症によって経済活動が停滞した中で、景気を良くするのは不可能です。
そのため、この時期にマイナス金利政策が真価を発揮する状況にあったとは言い切れません。
結局のところ、マイナス金利政策は成功だったとも失敗だったとも今の段階ではわからないと言わざるを得ないでしょう。
今後の日本経済がどうなるかで、この8年間の政策が正しかったのかどうかが後からわかるかもしれません。
■マイナス金利政策が解除されることで起こる影響は?
マイナス金利解除で気になるのは今後の影響です。
金利が上がると社会ではどんなことが起こり得るのでしょうか。
また、私たちは日銀にお金を預けるわけではありませんから、一見関係のない出来事のようにも思えます。
ですが、実は少なからず影響を及ぼす部分もあるので、ここからは、影響について詳しく見ていきましょう。
・民間銀行の預金金利も上昇
まず、今回のマイナス金利解除で最も恩恵を得るのは民間銀行です。
これまで、日銀にお金を預ける際には金利を逆に取られていたはずが、お金を預ければ金利をもらえるとなれば経営にも有利に働くことは間違いないでしょう。
実は、日銀が金利を上げるのではないかという観測は2023年の時点から行われていました。
今回、日銀が金利引き上げの根拠としたのは物価が上がったことですが、物価自体は2023年の時点で相当跳ね上がっていました。
そのため、マイナス金利解除に先立って、多くの民間銀行は定期預金の金利を上昇させています。
もちろん、今回日銀は0.1%程度までしか金利を上げないことを発表したので、大幅な金利引き上げを実行する金融機関はありません。
私たちが民間銀行にお金を預けたところで、もらえる金利はわずかしか上昇しないです。
とはいえ、お金を多めに金融機関に貯蓄している方が恩恵を受けられることに違いはありません。
・住宅ローンの金利の引き上げは必至
中央銀行が利上げを実施する時に一番懸念されるのは住宅ローンの引き上げです。
先ほど民間銀行の預金金利が引き上げられるという話をしましたが、これはローン金利の引き上げでも例外ではありません。
ちなみに、住宅ローンの金利には、固定金利と変動金利の2種類があります。
まず固定金利については、ここ数年物価の上昇傾向とともに上昇を続けています。
利上げが行われたことで固定金利も上がることは間違いありませんが、大幅な金利上昇は行われないと見ていいでしょう。
続いて変動金利ですが、これについては大幅な上昇は避けられません。
基本的に変動金利は、日本銀行の政策に左右されて上下動が行われます。
これまではマイナス金利だったおかげで変動金利も少なく設定されていました。
しかし、今回マイナス金利解除が発表されたからには、当然こちらの利上げもせざるを得ません。
もちろん、すぐさま金利が大幅な上昇をするとは限りませんが、ローンを組んだ際に変動金利を選んでいた方は注意しておいたほうが良いでしょう。
・企業にとって資金繰りは厳しくなる?
今回の利上げで、最も影響が出るのではないかと言われるのが企業の資金繰りです。
先ほど述べたように、そもそもマイナス金利を導入していた理由は、民間銀行が企業に対して積極的に貸し出しを行うよう促すためでした。
にもかかわらず、金利が引き上げられれば、こうした貸し出しは少しずつ鈍っていかざるを得ません。
もちろん、依然として日本の金利は低いままですから、民間銀行が日本銀行にお金を預け入れてもそこまでメリットはないです。
そのため、この間まで借りられていたお金が途端に借りられなくなったということはまず起こらないでしょう。
ですが、企業としてはリスクを防ぐためにも、一つの銀行に限らない融資先との関係を築くことが求められるはずです。
・私たちの普段の生活についての影響は?
続いて、マイナス金利解除が日本国民の生活にどんな影響を与えるかを考えてみましょう。
一般的に金利を上げると、それに伴って物価が下落しやすくなると言われています。
近年は物価上昇が顕著ですから、普段買っているものが少しでも安くなる可能性があると思うと、消費者にとってはありがたい話です。
しかしながら、今回の利上げに関しては物価に大きな影響は及ぼさないかもしれません。
というのも、先ほども見たように最近の物価上昇は金利を低く設定したことが要因にはなっていないからです。
たとえば、現在日本では円安が続いていますが、利上げによって多少の円高にはつながるかもしれません。
ですが、それも一時的なもので根本的な解決にはならないでしょう。
円安傾向が続けば海外から輸入される原料などは依然として高いままですから、私たちが普段購入する商品が安くなるわけではありません。
そのため、利上げしたところで国民の生活に大きな影響が出る可能性は低いでしょう。
■今後利上げは続くか、それともまたマイナスに戻るか?
今回の日銀のマイナス金利解除は日本にとって大きな政策転換です。
とはいえ、世界的に見れば日本の金利は依然として低いと言わざるを得ません。
たとえば、アメリカの政策金利は5.25~5.5%、ユーロは4%、中国は3.45%です。
もちろん、それぞれの国々の経済状況には違いがありますから、一概に金利が高ければ良いというわけではありません。
もっとも、日本のようにゼロに近い金利は先進国としては異常と言わざるを得ないでしょう。
そのため、今後は日本も世界に合わせて少しずつ金利を上げていくのではないかという観測が上がっています。
それに加えて、日銀もこれまで利上げのために何もしなかったわけではありません。
たとえば、2001年や2006年にはゼロに近かった金利を引き上げています。
つまり、本音を言えば日銀もまた金利を上げたいのです。
とはいえ、金利の引き上げは経済にとって痛みを伴います。
過去に金利の引き上げを行った時は、すぐ後に景気が悪くなって金利をまた引き下げざるを得ませんでした。
そのため、今回の金利引き上げもうまくいかず、またマイナス金利を導入せざるを得ないのではないかという予想もあるくらいです。
今後金利がどうなるかは日本の経済の動向次第と言えるでしょう。
■まとめ
今回、日銀が引き上げた金利の割合はたかだが1%にすぎません。
しかしながら、これだけでも全体の経済に与える影響は相当なものがあります。
企業を経営している場合やローンを組むうえでは日々流れてくるこうしたニュースを敏感にキャッチしなければいけないでしょう。