2022-09-07
ファクタリングとでんさい(電子記録債権)の違いは?メリット・デメリットも解説

ファクタリングとでんさいは、いずれも売掛債権を活用して資金調達を可能にするサービスとして注目されています。
中小企業では、売掛債権が多くても入金までの期間が長く、黒字倒産に陥るリスクがあります。
こうした状況で、売掛債権を早期に現金化できる手段としてファクタリングが活用される一方、でんさいも同様の仕組みを提供中です。
本記事では、仕組みが似ているファクタリングとでんさいの違い、それぞれのメリット・デメリットを詳しく解説します。
ファクタリングとでんさい(電子記録債権)の違い

まずはファクタリングとでんさいの違いについて、5つのポイントに分けて詳しく解説します。
償還請求権
ファクタリングとでんさいには、保証の有無に大きな違いがあります。
ファクタリングは基本的に償還請求権が発生しないノンリコース契約であり、売掛債権を売却後は、万が一取引先が支払不能になっても利用者に支払い義務は発生しません。これにより、貸し倒れリスクを回避できることがメリットです。
一方、でんさいの場合は、売掛債権を譲渡した企業が保証人となるため、取引先が債務不履行に陥った場合、利用者に支払い義務が生じます。この保証制度の違いから、リスク回避の観点ではファクタリングが優れていると言えます。
手数料
ファクタリングとでんさい(電子記録債権の割引)では、その仕組みとリスク負担の違いから、手数料の相場に大きな差があります。
| 種類 | 手数料の相場 |
|---|---|
| 2社間ファクタリング | 1~10% |
| 3社間ファクタリング | 10~20% |
| でんさい | 1.5~5.5% |
ファクタリングは基本的にノンリコース契約であり、売掛金が未回収になった場合のリスクはファクタリング会社が負います。このリスク分の対価として、手数料はでんさいよりも高めに設定されがちです。
一方のでんさいは、万が一の場合に利用者が弁済義務を負うリコース契約が原則です。金融機関はリスクを抑えて取引できるため、特に3社間ファクタリングと比較すると、手数料を大幅に下げられます。
契約の手間
ファクタリングとでんさいでは、資金調達の契約の手間にも違いがあります。
でんさいの場合、あらかじめ売掛先と利用者の双方が「でんさいネット」に登録し、共通の口座を設定しておけば、次回以降の資金調達では個別の契約手続きが原則として必要ありません。これにより、手続きの簡略化と迅速化が図れます。
一方のファクタリングは、売掛債権を毎回個別に売買する契約となるため、利用する度にファクタリング会社との間で契約手続きを繰り返す必要があります。このため、頻繁に利用する場合は、でんさいに比べて手続きの手間がかかるのです。
ネットワーク
ファクタリングとでんさいの最大の違いは、利用するネットワークの構造です。
でんさいは、1,300以上の金融機関が参加する「でんさいネット」を経由するため、取引先双方が利用していれば、決済システムを一括で手間なく使えます。
一方、ファクタリングは個別のファクタリング会社と契約を結ぶ仕組みであり、でんさいのような統一的な決済ネットワークは利用できません。
審査基準
ファクタリングとでんさいでは、審査で最も重視される基準が根本的に異なります。
でんさいの場合は、実質的に考えると金融機関からの融資に近いため、利用者に弁済能力があるかが審査されます。信用度が高いほど審査に通りやすくなることが特徴です。
一方のファクタリングは、契約の多くがノンリコースとなるため、売掛先の信用力を重視します。「売掛先が確実に支払って-くれるか」が、審査の鍵を握るのです。
そもそもファクタリングとは

ファクタリングとは、企業や個人事業主が持つ売掛債権を買い取り、現金化するサービスです。
企業間の商取引では「掛取引」が一般的であり、本来、売掛金が入金されるのは期日を迎えてからです。そのため、実際に現金を手にするまでに一定の期間を要します。ファクタリングは、この売掛債権を売却することで入金日を早め、資金を調達する仕組みです。
このサービスと銀行融資との大きな違いは、利用時に企業の業績が問われない点にあります。銀行融資では、通常、企業の財務状況や信用度が審査基準となりますが、ファクタリングでは売掛債権自体の信頼性が重視されるため、依頼主の業績は審査に影響しません。
こうした特性から、多くの中小企業が資金調達の手段としてファクタリングを活用しています。国も、銀行融資に過度に頼るのではなく、売掛債権を適切に運用することを推奨しています。
そもそもでんさい(電子記録債権)とは

「でんさい」とは、株式会社全銀電子債権ネットワークの略称であり、その「でんさいネット」に記録・管理される電子記録債権を指します。
電子化されたペーパーレスの金銭債権と考えるとわかりやすいでしょう。ただし、単に企業間の売掛債権をデータ化しただけでなく、安全性と確実性を確保したシステムです。支払い期日前に債権を現金化できる機能は、ファクタリングと変わりません。
でんさいを利用するには、取引先もでんさいネットに加入している必要があります。このサービスは全国の金融機関が参加しており、取引は参加金融機関を通じて実行されます。
でんさいは、従来の手形や振込に代わる新しい決済手段として、アナログだった決済業務を電子化し、オンラインでの完結を可能にしました。なお、「でんさいネット」は、全国銀行協会が100%出資する民間企業によって運営されています。
ファクタリングのメリットとデメリット

ファクタリングとでんさい双方の特徴を上記で紹介していきましたが、ここからはそれぞれのメリットとデメリットを詳しく紹介します。
メリット
ファクタリングの主なメリットは以下の通りです。
- 最短即日で現金を入手できる
- 保証人や担保が必要ない
- 債権の期日よりも前に現金化できる
- 業績が悪くてもサービスを利用できる
- 倒産リスクを回避できる
- 個人事業主でも利用できる
最大のメリットは、売掛債権を期日よりも前に最短即日で現金化できる点です。
銀行融資が数週間から数ヶ月かかることに対し、ファクタリングはオンライン完結型のサービスも多く、早ければ数時間で資金調達ができます。
また、企業の業績や個人の信用度が悪くても、売掛債権の存在さえ証明できれば、法人だけでなく個人事業主も利用できる手軽さがあります。
多くの場合ノンリコース契約であるため、契約締結後に取引先が倒産しても支払いの義務がなく、貸し倒れリスクを回避できる点も大きなメリットです。
デメリット
ファクタリングのデメリットは以下の通りです。
- 手数料がかかる
- 悪質業者が存在する
- 売掛先の信用状況次第で利用できなくなる
最も大きなデメリットは、手数料がかかる点です。
例えば、手数料10%で1,000万円の売掛債権を現金化した場合、100万円が差し引かれ、手元に入るのは900万円になります。
期日まで待てば満額を受け取れるため、ファクタリングを利用することにより発生するコスト負担はデメリットです。
また、まだ法的な規制が十分ではないため、悪質な業者が存在する点も大きなリスクです。
法外な手数料や消費税を請求されるケースがあるため、利用する際は優良なファクタリング会社を慎重に見極める必要があります。
でんさいの(電子記録債権)メリットとデメリット
ここからは、でんさいのメリットとデメリットを詳しく紹介します。
メリット
でんさいのメリットは以下の点が挙げられます。
- 債権の盗難は紛失を防止できる
- 個人事業主でも利用できる
- 二重譲渡防止
- 分割して譲渡や割引が利用できる
- 取り立ての手続きを削減できる
債務者側のメリットは、手形を発効するなどの事務手続きを簡略化できる点です。
印紙税が不要なので業務効率が高くなり、一括決済などを選択できるため手間もかかりません。
債権者側のメリットとしては、紛失や盗難リスクを防止できる点や譲渡や分割が簡単に行える点が挙げられます。また、面倒な取り立ての手続きも不要なので、業務の手間も削減できます。
必要な時に必要な分だけ分割したり譲渡したりすることができるため、自社のキャッシュフローに合わせながら資金を調達することが可能です。
従来までの手形では割引自体はできるものの、分割や譲渡ができないデメリットがあったため、柔軟性が増している点も大きなメリットです。
デメリット
でんさいのデメリットは以下の点が挙げられます。
- 事前に申し込みする必要がある
- 手数料がかかる
- 取引先と双方がでんさいネットを利用している必要がある
- セキュリティリスクがある
- 会計処理を変更しなければいけない
最大の課題は、でんさいの認知度がまだ低く、債務者と債権者の双方がでんさいネットに加入していなければ利用できない点です。
利用開始には事前の申し込みが必要であり、さらに手数料も発生するため、こうした初期の手間を負担と感じる企業も少なくありません。
結果として、双方未登録による利用不可のケースが多く発生しています。
ファクタリングかでんさい(電子記録債権)を選ぶポイントは?

ファクタリングは、自社の業績が悪くても、売掛先の信用力が高ければ利用できるため、現在の財務状況に不安がある企業に適しています。
特に、取引先がでんさいネットに加盟していない場合や貸し倒れリスクを完全に回避したい企業に最適です。
ファクタリングは都度契約が必要ですが、緊急性が高い単発の資金調達を迅速に行いたい場合に強みを発揮します。
一方のでんさいは、主に自社の経営状況が良好で、金融機関の審査を通過できる信用力がある企業に向いています。
手数料が安く設定されているため、資金調達コストを最優先で削減したい場合に有利です。
また、売掛先もでんさいネットに登録している必要があり、一度登録すれば継続的・定期的な資金調達を少ない手間で実現したい企業にも適しています。
ただし、原則リコース契約であるため、貸し倒れリスクは利用者が負担することになります。
まとめ
ファクタリングのでんさいの違いを詳しくご紹介しました。
どちらも売掛債権を使い資金調達ができる仕組みではありますが、でんさいは専用のでんさいネットに登録している必要があり、知名度も低いので使い勝手は悪いといえます。
いくら利用者である本人がでんさいネットに登録していても、取引先の企業も登録していなければいけないため、幅広い金融機関が提携していても使える場面は少ないです。
対してファクタリングは、2社間であれば利用者とファクタリング会社で契約が結ばれるため、でんさいネットのように面倒な登録の手間などは一切ありません。
そのため、売掛債権を早期で現金化したいと考えている方には、ファクタリングをおすすめします。
自社のニーズや保有している売掛債権の規模を考えた上で、ファクタリングかでんさいのどちらを利用するかを検討していきましょう。
