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2024-01-19

ファクタリングで求められる場合がある債権譲渡登記とは?

ファクタリングとは、支払期日が到来していない売掛先に対する売掛債権をファクタリング業者に買い取ってもらうことで現金化する資金調達法のひとつです。
買い取るときには債権譲渡と呼ばれる法律行為がおこなわれます。
簡単にいえば、売掛債権を売買契約してファクタリング利用者からファクタリング業者に移転することです。
この際、債権譲渡登記が求められるケースがあります。
債権譲渡登記とはどんなものなのか、どんな意義があるのか見ていきましょう。

目に見えない債権譲渡

ファクタリングは、支払期日が到来していない売掛先に対する売掛債権をファクタリング業者に譲渡することで、買取代金を受け取れるものです。
もっとも、売掛債権は帳簿上に記載があったり、売掛先との契約書や請求書などを見て存在が確認できたりしたとしても、目には見えません。
譲渡する対象が目に見える商品であれば商品が移転するので、譲渡の事実もわかりやすいです。
売掛債権は、支払期日が到来したら代金を請求できる権利であり、法律上存在していても、目には見えないので注意が必要です。
たとえば、A社がB社に対して有する100万円の売掛債権を、Xファクタリング業者に買い取ってもらった後、Yファクタリング業者に売ろうとしてもわからないかもしれません。
請求書を提示したり、請求書のコピーを提出したりしても、別のファクタリング業者にも譲渡している事実は見えてきません。
そのため、二重譲渡が起こるリスクがあります。
二重譲渡とは、同じ債権を複数の人に譲渡してしまう行為です。
先の例なら100万円の債権は1本しかないのに、100万円をXにもYにも譲渡してしまっています。
A社が勝手に2社に譲渡してしまったとしても、債務者であるB社は100万円しか払う義務はありません。
この点、二者間ファクタリングの場合、ファクタリング業者から代金を受け取った後、支払期日が到来して売掛先から代金を受け取ったら、ファクタリング業者に返済する必要があります。
三者間ファクタリングの場合は、支払期日が到来したら、ファクタリング業者が直接、売掛先に請求して代金を回収します。
では、二重譲渡してしまった場合はどうなるのでしょうか。
二者間ファクタリングの場合、A社はX社からもY社からも100万円を受け取り、200万円を手にしてしまっています。
ですが、支払期日が来ても、B社からは100万円しか支払われません。
そのため、100万円分返せなくなります。
最初から詐欺をするつもりなら、1社には返すこともなく行方不明になるかもしれません。
最悪の場合、返済せずにいなくなることも考えられます。
これは犯罪であり、詐欺罪として追及されることになります。
これに対して、三者間ファクタリングであった場合はどうでしょうか。
B社に対して、X社からもY社からも請求されて困ってしまいそうですが、実はそれを避けるための手段が設けられています。
三者間ファクタリングでは、債権譲渡の事実を債務者である売掛先に通知をするか、承諾を得なくてはならないとされています。
つまり、二重譲渡がされるとすれば、2つの通知が来たり、2回承諾を求められたりすることがあるわけです。
2回目の時点で、B社はおかしいと気づき、どちらが本当なのかと確認することになることが多く、二重に請求されて困る前の段階でトラブルに気づけます。

ファクタリングの主な方法をおさらい

ファクタリングには二者間ファクタリングと三者間ファクタリングの2つの方法があります。
二者間ファクタリングは、ファクタリング業者とファクタリング利用者だけで債権譲渡をおこない、売掛先である債務者はその事実を知らされません。
ファクタリング利用者はファクタリング業者から買取代金を受け取った後に支払期日がきたら、売掛先から代金を回収してファクタリング業者に送金することが求められます。
これに対して、三者間ファクタリングは債権譲渡の通知を売掛先におこなうか、売掛先に債権譲渡を承諾してもらうことが必要です。
売掛先は、売掛債権が取引相手である売主からファクタリング業者に移転したことを知るか、承諾をおこなっているので、支払期日が到来した場合は、ファクタリング業者に代金の支払いをおこないます。

債権譲渡の第三者対抗要件について

先に説明したように、債権は物と違い目に見えないので、売却されても客観的にわかりにくいのが問題です。
そのため、二重譲渡のリスクも高くなります。
そこで民法では、債権譲渡の事実を第三者にも対抗できる要件として以下のような定めを設けました。
民法上は、確定日付のある証書で、譲渡人から債務者に対する通知をおこなうか、債務者が譲渡人または譲受人に対して承諾をおこなうこととされています。
確定日付のある証書は、公証人の確定日付印がある書面か、もしくは、内容証明郵便でもかまいません。
三者間ファクタリングの場合、この民法上の第三者対抗要件を具備したことになります。
もし、同一の債権が二重譲渡され、第三者対抗要件を具備した譲受人と、具備していない譲受人が現れた場合、第三者対抗要件を具備した譲受人が優先します。
仮に第三者対抗要件を具備した譲受人が複数いる場合には、確定日付のある証書による通知が債務者に到達した日時か、債務者が承諾した日時の先後で判断することが必要です。
日時がもっとも早い通知、または承諾された債権譲渡が優先することになります。

民法上の第三者対抗要件の課題

民法上の債権譲渡の第三者対抗要件を具備するためには、債務者への確定日付のある証書による通知か、債務者からの承諾が必要です。
債権譲渡をしたことを債務者に知られると、債権者と債務者の信頼関係が悪化し「信用不安を持たれるのでは?」と不安に思われる方も少なくありません。
たとえば、売主が資金繰りに困って債権を売ったらしいと思われて、債務者との取引を停止されたり、噂を拡散され、取引先が減ったりするおそれもあります。
また、必要があって、多数の債権を一括譲渡するような場合に、個々の債務者への通知や承諾に要する手続が面倒であり、公正証書を複数作成したり、内容証明郵便を複数出したりする手間やコストが大きくなるのも課題です。
そこで、債権譲渡登記という第三者対抗要件を具備する方法が生まれました。
債権譲渡登記は債務者への通知、承諾とは異なり、債権者と譲受人の2者だけでおこなえます。
つまり、債務者に知らせずにおこなえるのです。
登記は基本的に公に公開されるものですが、債権譲渡登記がなされたからといって、法務局から債務者に告知がなされるわけではなく、債務者が自ら調べるようなことがない限り、気づかれません。
債権譲渡登記は、債務者への通知、承諾とは異なり、第三者対抗要件と債務者対抗要件が分離された方法といえます。
民法上の対抗要件具備の課題を克服し、債務者を関与させることなく第三者対抗要件を具備できるのがメリットです。

債権譲渡登記の方法

では、債権譲渡登記はどのようにして具備するのでしょうか。
民法上の債権譲渡の通知は確定日付ある公正証書か内容証明郵便にておこないましたが、債権譲渡登記は譲渡人と譲受人が共同で債権譲渡登記所にて登記を申請します。
共同といっても、一緒に行かなくてはならないのではなく、書類を一緒に作成して提出するという意味です。
登記所で直接おこなうほか、郵送やオンライン申請もできます。
オンラインでの申請であれば、スピーディーに債権譲渡登記の申請が可能です。
不備なく書類を提出し、申請が受理されると、債権譲渡登記所に備える債権譲渡登記ファイルに債権譲渡の記録がおこなわれます。
これによって、債権譲渡の第三者対抗要件が具備されたことになります。

債権譲渡登記と債務者対抗要件

民法による債権譲渡の第三者対抗要件である、債務者への通知または承諾の場合、債務者にも知られるので、債務者対抗要件も同時に具備したことになります。
一方、債権譲渡登記の場合は債務者対抗要件とは切り離されているので、具備できるのは第三者対抗要件のみです。
では、債務者にも債権譲渡の事実を対抗したいときにはどうすればよいのでしょうか。
もし、債務者対抗要件も具備したいときには、債権譲渡登記をおこなった後、必要に応じて、債権譲渡の事実と債権譲渡登記をしたことについて、債務者に登記事項証明書を交付して通知することで具備が可能です。
民法上の債権譲渡の通知は、譲渡人、すなわち、債務者にとってもともとの債権者からおこなう必要がありますが、債権譲渡登記をしたことの通知と交付は、譲受人からでも認められます。
また、債権譲渡登記の通知をしなくても、債権譲渡の事実と債権譲渡登記をしたことについて債務者のほうから、譲渡人または譲受人に承諾がなされた場合も、債務者対抗要件を具備できます。

二者間ファクタリングの場合

二者間ファクタリングの場合、ファクタリング業者によっては、ファクタリングの条件として債権譲渡登記の具備を求められることがあります。
これは、ファクタリング業者が、ファクタリング利用者による二重譲渡を警戒し、防止するための対応策です。
ファクタリング利用者が、別のファクタリング業者に同じ債権を譲渡しようとしたとき、そのファクタリング業者が債権譲渡登記の有無を照会すれば、二重に買い取ることを防げます。
一方、債務者である売掛先には内緒でおこないたいファクタリング利用者が多いため、債務者に対して債権を譲渡登記したことを知らせることはほぼありません。

債権譲渡登記の効果

債権譲渡登記によって具備された第三者対抗要件は、民法による債務者への通知または承諾による第三者対抗要件と同列の効果が生まれます。
そのため万が一、同一の債権の二重譲渡や複数譲渡が生じた場合、いずれの対抗要件具備がもっとも早いかで優劣が決まるので注意しましょう。
いつの時点を基準にするかは、確定日付のある証書による通知の場合は債務者に到達した時点、確定日付のある証書による承諾は債務者が承諾した時点、債権譲渡登記は登記事項証明書に記載される登記をした時点となります。
このいずれかの時点でもっとも早いものが、債務者からの支払いを請求可能です。
債務者から見た場合、同一の債権につき複数の譲受人から請求を受けた場合、第三者対抗要件を具備した者と、具備していない者がいる場合には、第三者対抗要件を具備した者に弁済することが求められます。
そして、第三者対抗要件を具備した者が複数存在する場合には、先の基準に基づき、第三者対抗要件の具備時点がもっとも早い者に支払うことになります。

まとめ

ファクタリングでは、同一債権を複数のファクタリング業者に二重譲渡する危険性を防止することが必要です。
そのため、民法上の債権譲渡の第三者対抗要件と債務者対抗要件を同時に満たす債務者への通知、または承諾を得る三者間ファクタリングではなく、ファクタリング業者とファクタリング利用者だけで債権譲渡をおこなう二者間ファクタリングでは、債権譲渡登記が求められることがあります。
債権譲渡登記をおこなうと第三者対抗要件を具備でき、二重譲渡の予防ができます。